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Update: 2024/04/24
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PEER-REVIEWED ARTICLES

28 papers published/accepted in total

・First (or co-first) author: 27 papers 

・Co-author: 1 paper 

Jo, T. S. (In preparation)​

Jo, T. S. Ozaki, Y., Matsuda, N., & Yamanaka, H. (In preparation)

Different production patterns of mitochondrial and nuclear environmental nucleic acids can be used to predict ayu (Plecoglossus altivelis) body size. 

Jo, T. S. & Sasaki, Y. (In preparation)

Evaluating the quantitative performance of environmental DNA metabarcoding for freshwater zooplankton community: A case study in Lake Biwa, Japan. 

・Osawa, R., Jo, T. S., Nakamura, R., Futami, K., Itayama, T., Chedeka, E. A., Ngetich, B., Nagi, S., Kikuchi, M., Njenga, S. M., Ouma, C., Sonye, G. O., Hamano, S., & Minamoto, T. (Under review)

Methodological assessment for efficient collection of Schistosoma mansoni environmental DNA and improved schistosomiasis surveillance in tropical wetlands. (R.O. & T.S.J. equally contributed to the work)  

28 Jo, T. S. (2024). Larger particle size distribution of environmental RNA compared to environmental DNA: a case study targeting the mitochondrial cytochrome b gene in zebrafish (Danio rerio) using experimental aquariums. The Science of Nature, 111(2), 18. 

Link: https://link.springer.com/article/10.1007/s00114-024-01904-w#citeas

環境RNAを用いた個体 (群) の生理状態の検出可能性が期待されていますが、その性質や動態に関する研究は環境DNA以上に不足しています。本研究は、ゼブラフィッシュ (Danio rerio) を用いた水槽実験を行い、環境DNAと環境RNAの粒径サイズ分布 (PSD) を比較しました。幾つかの画分に分けられた環境DNAと環境RNA濃度を基に、ワイブル分布を用いたモデリングによってPSDを特徴づけるパラメータを推定しました。その結果、分布の広がりを表す尺度パラメータ (α) は環境RNAの方が有意に高かった一方、分布の概形を表す形状パラメータ (β) は両者で有意に異なりませんでした。この結果は、環境RNAの方が大きな平均粒径サイズを有することを示しており、環境RNA粒子の多くが膜に覆われることでその残存性を向上させているという仮説を支持します。この結果を基に、環境RNAの不均質な拡散や粗孔径フィルターを用いた環境RNA回収の効率化についても議論しました。本結果はミトコンドリア遺伝子のみを対象とした水槽実験データに基づくため、核遺伝子を対象とした結果や野外環境での推定が求められます。

27 Jo, T. S., Matsuda, N., Hirohara, T., & Yamanaka, H. (2024). Comparative evaluation for the performance of environmental DNA and RNA analyses targeting mitochondrial and nuclear genes from ayu (Plecoglossus altivelis). Environmental Monitoring and Assessment, 196(4), 374.

Link: https://link.springer.com/article/10.1007/s10661-024-12535-z#citeas

​水中にはミトコンドリア (mt) だけでなく核遺伝子に由来する環境DNA、さらにはそれらの転写産物 (環境RNA) も存在します。しかしながら、これら環境核酸間での検出感度や定量精度の違いは統合的に評価されておらず、それぞれの環境核酸を分析する上での特性はよく分かっていません。本研究では、水産重要種のアユ (Plecoglossus altivelis) を用いた水槽実験を行い、これら環境核酸の検出・定量パフォーマンスを比較しました。mtDNAのシトクロムb (CytB) と核rRNA遺伝子上の18S領域を対象にそれぞれ種特異的な検出系を開発し、飼育水中のmt・核遺伝子に由来するアユ環境DNA・RNA濃度を測定しました。mt遺伝子に対して核遺伝子をターゲットにすることで、環境DNAでは6.7倍、環境RNAでは100倍以上も収量は増加しました。一方、サンプル間の環境 RNA濃度の変動は環境DNAとあまり対応しておらず、環境RNAの定量値は環境DNAよりもばらつきやすいことが示唆されました。PCR繰り返し間での環境RNA濃度の変動係数も環境DNAより高い傾向にあり、これもまた環境DNAに対する環境RNAの低い定量精度を示唆しました。本結果から、環境RNAは環境DNAよりも高感度に検出される場合がある一方で、高精度な定量には不向きであることが考えられます。他の種や遺伝子領域を対象にしたさらなる研究が求められます。

26 Hidaka, S., Jo, T. S., Yamamoto, S., Katsuhara, K. R., Tomita S., Miya, M., Ikegami, M., Ushimaru, A., & Minamoto, T. (2024). Sensitive and efficient surveillance of Japanese giant salamander (Andrias japonicus) distribution in western Japan using multi-copy nuclear DNA marker. Limnology, 25, 189-198. (S.H. & T.S.J. equally contributed to the work) 

Link: https://link.springer.com/article/10.1007/s10201-023-00740-7#citeas

オオサンショウウオ (Andrias japonicus) は世界で最大級の両生類であり、日本の特別天然記念物として広く親しまれています。しかしながら、地球温暖化に伴う気候変動や外来のチュウゴクオオサンショウウオなどとの競合により、その生息域の減少が近年危惧されています。私たちは、オオサンショウオの生息が確認されたことのある西日本の12河川で広域採水を行い、環境DNAに基づくオオサンショウウオの分布調査を行いました。過去に設計されたミトコンドリアDNAマーカー(Fukumoto et al., 2015, J. Appl. Ecol.) に加え、本研究では新たにリボソームRNA遺伝子領域を対象とした核DNAマーカーを設計し、マーカー間での検出率の違いも比較しました。統計解析の結果、核DNAマーカーはミトコンドリアDNAマーカーよりも環境DNA検出率が高く、より高感度に環境DNAを検出できることが分かりました。また、電気伝導度の高い地点では環境DNAは一貫して検出されにくく、pHの高い地点でも環境DNAは検出されにくい傾向にあり、水質汚染や人為的影響とのオオサンショウウオの生息地の関連性が示唆されました。こうした大規模な分布データを比較的短期間で集められるのは環境DNA技術の大きな利点であり、生息適地モデルによる本種の将来的な分布予測なども、より効果的に行うことができると期待されます。

25 Jo, T. S. (2024). Synthesizing the relationships between eDNA concentration and freshwater macrophyte abundance: A systematic review and meta-analyses. Hydrobiologia, 851(1), 1697–1710. 

Link: https://link.springer.com/article/10.1007/s10750-023-05409-x#citeas

環境DNA分析は、魚や両生類などの水生動物に加え、沈水植物などの水生植物の分布モニタリングにも用いられています。しかし、環境DNA濃度が水生植物のアバンダンスをどの程度反映するかは水生動物の場合よりも明らかでなく、これまでの研究においても水生植物の環境DNA濃度とアバンダンスの関係性は必ずしも一貫していません。本研究では、淡水域の沈水植物を対象とした先行研究の結果を振り返り、環境DNA濃度とアバンダンスの相関性をメタ解析しました。その結果、これらの間には有意な、しかし動物の場合 (Yates et al., 2019; Environ. DNA) よりも弱い、正の相関が認められました (平均r = 0.45)。また、この相関性は予想に反して、実験環境よりも野外環境の方が強い傾向にありました。これには、アバンダンス指標 (被覆率) の定量性・種特異性の限界、植物環境DNAの不均質な放出と分散、環境DNA放出のフェノロジー依存性などの要因が複雑に関連していると考えられますが、より多くの生態・環境パラメータを加味したさらなる研究の積み重ねが求められます。本メタ解析の結果から、環境DNA濃度は水生植物のアバンダンスの局所的な推定にはあまり向いておらず、より広い空間スケール (より低い空間分解能) での適用が現実的であると考えられます。研究の最後では、環境DNAに基づく水生植物の分布・アバンダンス推定をより実用的なものにするために今後取り組まれるべき課題とその解決策を提示しました。

24 Jo, T., Tsuri, K., Hirohara, T., & Yamanaka, H. (2023). Warm temperature and alkaline conditions accelerate environmental RNA degradation. Environmental DNA, 5(5), 836-84.  (T.J. and K.T. equally contributed to the work)​

Link: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/edn3.334

龍谷大学プレスリリース: https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-10858.html

環境RNA (環境中の生体外RNA分子) を用いた生物モニタリングの可能性が、近年着目されつつあります。一般にRNA分子はDNA分子よりも物理化学的に不安定であるため、環境RNAは環境DNAよりも検出されにくく速く分解されることが期待されていますが、その残存・分解メカニズムはよく分かっていません。本研究では、ゼブラフィッシュ (Danio rerio) を用いた水槽実験を行い、異なる水温およびpH条件における環境RNAの分解速度を推定し、環境DNAの結果と比較しました。統計解析の結果、環境RNAは環境DNAよりも分解速度が高い傾向が見られましたが、それらの信頼区間は重なっており、従来想定されていたほどすぐに環境RNAは水中から検出されなくなるわけではないことが示唆されました。また、高水温は環境DNA・RNAの分解を促進させましたが、pHの影響は核酸タイプ間で少し異なっており、核酸間の物理化学的性質やそれらを取り囲む膜構造などによるものだと考えられます。さらに、環境DNAに対する環境RNAの相対濃度は時間経過に伴い減少しており、この環境核酸比は水中の環境核酸物質の放出後時間や新鮮さを表す指標として利用できるかもしれません。

23 Jo, T. S. (2023). ​Validating post-enrichment steps in environmental RNA analysis for improving its availability from water samples. Functional & Integrative Genomics, 23(4), 338. 

Link: https://link.springer.com/article/10.1007/s10142-023-01269-9

環境RNAの効率的な利用にとって、その検出可能性を最大化するためのプロトコル開発は必要不可欠ですが、環境RNA技術における手法検討やその改良は環境DNA技術以上に進んでいません。先行研究では環境RNAの回収・保存・抽出ステップに着目しました (Jo, 2023, Anal. Sci.) が、本研究ではそれ以降のステップ、すなわちRNA抽出物中のゲノムDNA除去ならびに逆転写に着目し、これらステップがゼブラフィッシュ (Danio rerio) 環境RNAの収量に与える影響を水槽実験によって検証しました。加えて本研究では、過去の水槽実験 (Jo et al., 2023, Environ. DNA) のデータを再解析し、環境RNA定量値のばらつきがサンプル間およびサンプル内 (=PCR繰り返し間) でどのように異なるかを調べました。結果、(1) 過剰なゲノムDNA除去は環境RNA収量を低下させうること、(2) 遺伝子特異的なプライマーを逆転写に用いることで、ランダムヘキサマープライマーと比較して環境RNAの収量が数倍増加すること、(3) 遺伝子領域を問わず、環境RNA定量値の変動係数はサンプル間よりもPCR繰り返し間の方が大幅に低いこと、がそれぞれ示されました。これらの発見を含め、環境RNAの高感度かつ高精度な検出を可能にするための手法の検討が引き続き求められます。

22 Jo, T. S. (2023). Methodological considerations for aqueous environmental RNA collection, preservation, and extraction. Analytical Sciences, 39(10), 1711–1718.

Link: https://link.springer.com/article/10.1007/s44211-023-00382-w#citeas

環境RNAを用いた生態生理モニタリングへの展望に伴い、その効率的な利用のための手法開発が求められています。本研究では、環境RNAの回収・保存・抽出に焦点を当て、ゼブラフィッシュ (Danio rerio) の飼育水槽を用いてこれら手法の検討を行いました。始めに、RNA抽出時に用いるlysis bufferの量を調節したところ、バッファー量を350 → 500 µLに増やすだけで環境RNA収量が6倍程度に増大することが分かりました。次に、環境RNA収量を同一の材質の異なるフィルター孔径サイズ間で比較したところ、GF/F (0.7 µm平均孔径) とGF/A (1.6 µm) の間では同程度であり、フィルターあたりのろ過量や時間を考慮すれば、GF/Aフィルターの方がより多くの環境RNAを回収できる可能性が示唆されました。最後に、組織・バルクサンプル中のRNAの保存試薬として用いられるRNAlaterが、フィルター中の環境RNAを-20℃や4℃下においても (短くとも) 1週間程度は安定的に保存できることを確かめました。これら結果は、個体の採集に依らないメタトランスクリプトミクスを含め、環境RNAの野外適用の可能性を大きく拡げることが期待されます。

21 Jo, T. S. (2023). Factors affecting biphasic degradation of eDNA released by Japanese jack mackerel (Trachurus japonicus). Journal of Experimental Marine Biology and Ecology, 568, 151941. 

Link: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022098123000734?dgcid=author

一般に、環境DNAの分解速度 (k) は時間に関わらず一定であることが仮定されます。しかしながら、その様々な存在状態を踏まえ、初期の急速な分解 (k1) + その後の緩やかな分解 (k2) といった段階的な分解フェイズの方が、環境DNAの分解プロセスをより正確に反映する可能性が近年指摘されていますが、それぞれのフェイズがどのような要因に影響を受けるのかはよく分かっていません。本研究では、マアジ (Trachurus japonicus) 環境DNAの分解速度を推定したデータセット (Jo et al., 2020, Environ. DNA) を再解析した結果、水温、生物量密度、遺伝子マーカー (核 or ミトコンドリア) の全てがk1において有意であった一方、k2では有意でないことが明らかになりました。これらの結果から、微生物や生体外酵素による環境DNAの分解は特に初期のフェイズにおいて重要であることが示唆された一方、各フェイズを駆動する要因のより多角的・網羅的な探索が将来的に求められます。

20 Jo, T. S. (2023). Pooling of intra-site measurements inflates variability of the correlation between environmental DNA concentration and organism abundance. Environmental Monitoring and Assessment, 195(8), 936.

Link: https://link.springer.com/article/10.1007/s10661-023-11539-5#citeas

環境DNAを用いた生物量推定を実用化していく上で、環境DNA濃度と生物量の相関性に影響する要因の理解は必要不可欠です。水温や水の流れなど環境要因による影響は近年少しずつ議論され始めていますが、サンプリング・分析方法がこの相関性にどう影響するかは、まだほとんど注目されていません。一つの調査地で繰り返し得られた環境DNA濃度・生物量に関する測定値は、調査地内でのばらつきを抑えるためにプール (平均化) されることがしばしばあり、これは環境DNA濃度と生物量の相関性を向上させる可能性があります。一方、この処理によって解析に使えるサンプルサイズもまた減少するため、環境DNA濃度と生物量の相関性はかえって低下することも考えられます。本研究では、環境DNA濃度と生物量の相関性におけるこのプール処理の影響を調べるために数値シミュレーションを行いました。その結果、プール処理は推定されたピアソン相関係数の平均値には影響しないが、そのばらつき (変動係数) を増大させることが分かりました。湖沼における異なる分類群を対象とした2つの先行研究 (Dougherty et al., 2016, J. App. Ecol.; Lacoursière-Roussel et al., 2016, J. App. Ecol.) の再解析によっても、このシミュレーションの結果は概ね支持されました。これらの結果から、頑健な生物量推定のためには、一つの調査地で繰り返し得られたサンプルはプールせずに、なるべく個別に解析した方が良い可能性があります。本結果は閉鎖系など限られた条件を仮定しており、より多様かつ柔軟な条件の下での検証が今後求められます。

19 Jo, T. S. (2023). Utilizing the state of environmental DNA (eDNA) to incorporate time-scale information into eDNA analysis. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 290(1999), 20230979. 

Link: https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2023.0979

環境DNA技術における最大の制約の一つに、「検出された環境DNAがいつ環境中に放出されたものかが分からない」があります。放出されて時間の経った「古い」環境DNAほど、元の個体からより遠くで検出されやすく、それゆえに生物分布・量に関する誤った解釈をもたらす可能性があります。この問題に対処するには、環境DNAの放出後時間を推定すると共に、放出されて間もない「新鮮な」環境DNAのみを選択的に検出する必要があります。本原稿では、環境DNAの存在状態が分解の過程で経時的に変遷していくことに着目し、環境DNAの放出後時間を推定するための3つの方法論 (DNA損傷度、粒径サイズ分布、生細胞の検出) について概説しました。また、その物理化学的な不安定性や多様な発現パターンを踏まえ、環境RNAならびに環境核酸比 (RNA: DNA) を用いた時間情報の推定可能性についても触れました。これらアプローチは、現行の環境DNA技術をアップデートし、環境DNAに基づく生物モニタリングの精度・信頼性を向上させるものであり、実用化に向けてさらなる研究が求められます。

18 Jo, T. S. (2023). A higher DNA damage rate in aqueous eDNA particles suggests intra-cellular eDNA degradation in cellular environments. Environmental DNA, 5(2), 343-349.

Link: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/edn3.383

環境DNAの「分解」(DNA量の経時的な減少率) に対して、環境DNAの「損傷」(DNA鎖の断片化の程度) に関する研究は非常に限られています。本研究では、環境毒性学などで使われているリアルタイムPCRに基づく手法 (e.g., Meyer, 2010, Ecotoxicology) を適用することで、環境DNAサンプル中のDNA損傷度の推定を試みました。様々な孔径サイズのフィルターでゼブラフィッシュ (Danio rerio) 飼育水をろ過し、水サンプル中のミトコンドリア環境DNAを異なる増幅長のプライマーセットを用いてそれぞれ定量し、指数モデルに基づいてDNA損傷度 (λ; /bp) を推定しました。推定されたλは0.0004-0.0018 (/bp) の範囲で、フィルター孔径サイズに比例して高くなっていました。この結果は、DNaseなどによる細胞内でのDNA分解の影響を示唆しており、環境DNAの状態依存的な分解プロセスとも関連しているのかもしれません。環境DNAに基づく種・遺伝的多様性の解像度を高めるには「質の良い、劣化の少ない」環境DNAサンプルが必要であり、環境DNAサンプル中のDNA損傷度を推測する新たな手法として、今後の検証が求められます。

17 Jo, T. S. (2023). Correlation between the number of eDNA particles and species abundance is strengthened by warm temperature: Simulation and meta-analysis. Hydrobiologia, 850(1), 39-50.

Link: https://link.springer.com/article/10.1007/s10750-022-05036-y#citeas

生物量推定の信頼性の向上は、環境DNA技術における主要課題の一つです。環境DNA濃度と生物量の関係性は実験系に比べて野外系で弱まることが知られていますが、この相関性にどの環境要因が具体的にどのように影響するのかはよく分かっていません。本研究では、環境DNA分解の主要因である水温に着目し、環境DNAの分解速度が水温によって変動した時に、環境DNA濃度と生物量の関係性がどう変化するのかを数理モデルを用いて調べました。過去のメタ解析 (Jo & Minamoto, 2021, Mol. Ecol. Resour.) から任意の水温における環境DNAの分解速度をモデリングし、異なる温度帯および環境DNA放出のシナリオの下で環境DNA濃度と生物量の関係性をシミュレートしました。その結果、環境DNA放出シナリオに関わらず、より高い温度帯で回帰直線のR2値は高くなりました。環境DNAの急速な分解がその水中でのターンオーバーを早め、より新しい/ソース個体に近傍の環境DNAが検出されやすくなることが、この結果をもたらしたと考えられます。このシミュレーション結果の妥当性を評価するために、私はさらに先行研究のメタ解析を行い、環境DNA濃度と生物量の関係性 (ピアソンの相関係数) と平均水温の間に有意な正の相関があることを見出しました。これら結果は、水温など環境パラメータを定量的に考慮することが、環境DNAに基づく生物量推定の信頼性にとって非常に重要であることを示しています。今後、環境DNAの動態ならびにその生物量との関係性に対する環境パラメータのより多角的な評価が求められます。

16 Jo, T., Sato, M., Minamoto, T., & Ushimaru, A. (2022). Valuing the cultural services from blue space ecosystems in Japanese megacities during the COVID-19 pandemic. People and Nature, 4(5), 1176-1189. (All authors equally contributed to the work)

Link: https://besjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pan3.10366

神戸大学プレスリリース: https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2022_07_01_01.html

生態系がもたらす様々な恩恵 (生態系サービス) の内、文化的サービスは人々の物理的・精神的ストレスを緩和する上で重要な働きを担っており、昨今のコロナ禍 (COVID-19) においても重要視されています。これまでの研究の多くは、山地や農地、公園などの ”green space” に着目してきましたが、河川や沿岸、海洋などの ”blue space” に着目した研究は多くありません。私たちは、日本の4つの都市 (東京、横浜、大阪、神戸) でアンケート調査を実施し、第一次緊急事態宣言 (2020年4-5月) の期間中および解除後に、どのような人々がどのような目的・モチベーションで海や河川を訪れたのかを調査しました。大多数の人々は外出を控えていた中、幼少期からの自然経験の豊富な人や、周囲にblue spaceが満足にあると感じている人、そして特に小学生までの児童と同居している人ほど、これらのblue spaceに訪れる頻度が高いことが分かりました。また、海や河川を利用する人の多くが、ただのんびりしたり、自身のストレス解消や健康維持のために訪れていました。一方、利用様式は海と河川の間でやや異なり、海では釣りやマリンスポーツ、河川では動植物との触れ合いが多い傾向にありました。これらから、どちらのblue spaceも、このコロナ禍において人々の肉体的・精神的健康のための重要な場を提供しており、かつ都市域の人々にとってそれらの文化的サービスは質的に少し異なっている可能性が示されました。

15 Jo, T. & Yamanaka, H. (2022). Fine-tuning the performance of abundance estimation based on environmental DNA (eDNA) focusing on eDNA particle size and marker length. Ecology and Evolution, 12(8), e9234. 

Link: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ece3.9234

高い精度での生物量推定は環境DNA技術における主要課題であり、環境DNAの放出後動態 (移流拡散・分解) を考慮したモデリングがその推定精度を向上させるのに有効であることが示唆されています (e.g., Fukaya et al., 2021, Mol. Ecol.)。一方、これら環境DNAの動態はその存在状態 (膜構造・分子学的状態) にも強く影響を受けるため、いわば「分析される環境DNAのタイプ」によっても推定精度は変動することが期待されます。本研究では、ゼブラフィッシュ (Danio rerio; Jo et al., 2022, Sci. Nat.) およびマアジ (Trachurus japonicus; Jo et al., 2019, Environ. Sci. Technol.) を用いた水槽実験のデータセットをそれぞれ用いて、環境DNA濃度と生物量の関係を異なるサイズ画分およびPCR増幅長の間で比較しました。両方の実験結果から、分析対象に3-10 µmのサイズ画分の環境DNAが含まれていた場合、生物量推定の精度 (回帰のR2値) と感度 (回帰の傾き)の両方が高くなったのに対して、10 µm以上のサイズ画分の環境DNAを分析対象に含むと推定精度は低くなりました。この結果は、環境DNAの回収のために極端に大きな孔径サイズのフィルター (10 µm以上) を用いると、環境DNA濃度と生物量の相関性が低下しうることを示唆しています。また、より長いDNA鎖の環境DNAを分析対象にしても、推定精度は低下する傾向にありました。これら結果を踏まえ私たちは、環境DNA濃度と生物量の関係は、環境DNAの存在状態および残存性、そして空間的な不均質性の間に成り立つ複雑な相互作用に依存する可能性を新たに提案しました。

14 Jo, T. S., Tsuri, K., & Yamanaka, H. (2022)​. Can nuclear aquatic environmental DNA be a genetic marker for the accurate estimation of species abundance? The Science of Nature, 109(4), 38. 

Link: https://link.springer.com/article/10.1007/s00114-022-01808-7#Ack1

​環境DNA検出では、主にミトコンドリアDNA (mtDNA) がターゲットとされてきましたが、リボソームRNA遺伝子などのマルチコピー核DNAも同等の検出感度を有することが知られています。一方、生物量推定における両遺伝子マーカーのパフォーマンスはこれまで比較されてきませんでした。本研究では、魚類のマルチコピー核・ミトコンドリアに由来する環境DNA濃度を推定した過去のデータセット (Minamoto et al., 2017, Mol. Ecol. Resour.; Jo et al., 2020b, Environ. DNA) を再解析し、環境DNA濃度と生物量の回帰直線のR2値がmtDNAよりもマルチコピー核DNAの方が高い傾向にあることを発見しました。並行して私たちはゼブラフィッシュを用いた水槽実験を行い、mtDNAよりもマルチコピー核DNAの方が分解されやすいことも示しました。実験間の因果関係は直接的でありませんが、核環境DNAの水中での低い残存性および早いターンオーバーが、マルチコピー核DNAマーカーによる生物量推定精度の高さをもたらしている可能性があります。とはいえ、研究例の少なさ故にR2の重み付け平均値は遺伝子タイプ間でほとんど変わらず、核DNAマーカーを用いた環境DNA研究のさらなる充実が求められます。

13 Jo, T. & Yamanaka, H. (2022). Meta-analyses of eDNA downstream transport and deposition in relation to hydrogeography in riverine environments. Freshwater Biology, 67(8), 1333-1343. 

Link: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/fwb.13920

【The top 10% most cited paper in 2022-2023】

河川のような流水環境で環境DNAモニタリングを行う際、環境DNAがどれくらい下流まで流されるのかを知ることは極めて重要です。幾つかの先行研究は、河川における環境DNAの最大流下距離を報告してきましたが、これはソース地点の生物量や環境DNA放出量、また採水地点の設定方法によって大きく異なるため、河川間での流下距離の比較や研究結果の統合は困難でした。一方、流下距離と環境DNA濃度の関係から推定される平均的な移流距離 (Sw) はこうしたバイアスに頑健であり、かつ任意の割合の環境DNA粒子が到達しうる流下距離も容易に計算できます。このアプローチに基づき、私たちは環境DNAの流下距離を調べた9つの先行研究を統合したメタ解析を行いました。Swは111.5-424.8 m (95% CI) と推定され、ソース地点から放出された環境DNA粒子の99%は2km以上遠くへは流下しないことが示唆されました。また、Swは河川流量と強く相関しており、本アプローチの妥当性が示されました。今後、多様な環境パラメータとSwとの関わりを調べていくことで、河川環境における環境DNAの移流動態のより良い理解、そしてより効率的なサンプリングデザインの提案が可能になることが期待されます。

12 Jo, T., Takao, K., & Minamoto, T. (2022). Linking the state of environmental DNA to its application for biomonitoring and stock assessment: targeting mitochondrial/nuclear genes, and different DNA fragment lengths and particle sizes. Environmental DNA, 4(2), 271-283. 

Link: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/edn3.253

この10年あまりで、環境DNA技術による生物モニタリングは世界中で爆発的な広まりを見せていますが、その精緻化や新たな技術開発の根幹をなす「環境DNAの基礎的な生態 (Barnes & Turner, 2016, Conserv. Genet.)」に関するコンセンサスは、依然として不足しています。本総説では、これまでに国際査読誌で発表されたマクロ生物を対象とした環境DNA研究 (2008-2020年; 728本) を整理し、環境DNAの性質・動態に関する理解がどれだけ進んできたのかを概説すると共に、その残存状態に関する研究例が特に少ないということを指摘しました。環境DNAが放出された後の分解・移流プロセスが、環境要因だけでなく環境DNA自体の性質にも依存しうることを考慮すれば、この結果は環境DNAの基礎情報に関する私たちの理解の「ボトルネック」を示唆しているとも言えます。加えて私たちは、環境DNAの基礎情報の蓄積が本技術の改善にどのようにつながるかに加え、核DNA・長鎖DNA・細胞内DNAなど様々な分子学的状態の環境DNAに基づく本技術の新たな応用可能性についても、幾つかの研究例と共に概説しました。

11 Jo, T., Sakata, K. M., Murakami, H., Masuda, R., & Minamoto, T. (2021). Universal performance of benzalkonium chloride for the preservation of environmental DNA in seawater samples. Limnology and Oceanology: Methods, 19(11), 758-768.

Link: https://aslopubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/lom3.10459

塩化ベンザルコニウム (BAC) は、水サンプル中のeDNAの分解を抑制するために、主に日本で広く用いられています。しかしながら、これまでBACの効果は、淡水域や汽水域を対象に、短鎖ミトコンドリアDNA断片を対象とした種特異的検出系でしか検証されてきませんでした。本研究ではマアジ (Trachurus japonicus) を用いた水槽実験および野外サンプリングを行い、BACが海水サンプル中の核および長鎖DNA断片の分解抑制にも有効であることを報告しました。さらに、MiFishプライマー (Miya et al., 2015 Royal Soc. Open Sci.) を用いた魚類環境DNAメタバーコーディングも行い、BACを加えることで検出種数は採水後24時間後もほとんど変わらないことを示しました。本研究は、環境DNA保存試薬としてのBACの非常に高い汎用性を裏付けており、今後BACが世界中でますます使われるようになることを期待しています。

10 Jo, T., Ikeda, S., Fukuoka, A., Inagawa, T., Okitsu, J., Katano, I., Doi, H., Nakai, K., Ichiyanagi, H., & Minamoto, T. (2021). Utility of environmental DNA analysis for the effective monitoring of invasive fish species in reservoirs. Ecosphere, 12(6), e03643.

Link: https://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ecs2.3643

ダム湖への外来種の侵入は、ダム湖内だけでなくその下流河川の生態系にも大きな脅威となります。本研究では、Jo & Fukuoka et al. (2020) で用いられた外来3魚種 (ブルーギル Lepomis macrochirus / オオクチバス Micropterus salmoides / コクチバス Micropterus dolomieu) 環境DNAのマルチプレックスPCR検出系を用いて、ダム湖における効率的な外来魚モニタリング手法としてのeDNA分析の有用性を評価しました。初めに、外来魚環境DNAの検出率を最大化させるための採水位置・時期を決定するために、3ヶ所のダム湖で季節的な採水を行いました。その結果、夏季または対象種の繁殖期における岸辺での採水が、環境DNAの検出率を向上させることが分かりました。次に、全国30ヶ所のダム湖で夏季に採水を行い、環境DNAに基づく在不在パターンを長年の捕獲調査 (河川水辺の国勢調査) の結果と比較しました。その結果、手法間で在不在パターンのおよそ90%が一致し、環境DNA分析の簡便性および検出感度の高さが、ダム湖における外来種モニタリングにおいても極めて有用であることが示されました。

Jo, T. & Minamoto, T. (2021). Complex interactions between environmental DNA (eDNA) state and water chemistries on eDNA persistence suggested by meta-analyses. Molecular Ecology Resources, 21(5), 1490-1503.

Link: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/1755-0998.13354

検出された環境DNAが示す時空間的スケールを決定するためには、その残存性や分解プロセスの理解が不可欠です。これまで、水温やpHといった環境要因の影響は調べられてきましたが、環境DNAの分子学的・細胞学的状態 (膜内/外、核/ミトコンドリア、DNA断片長 など) によってその残存性がどのように変化するかは全く調べられてきませんでした。本研究では、環境DNAの分解速度を推定した26の先行研究を用いたメタ解析により、環境DNAの残存性と状態の関係性、そしてそれに対する環境条件の影響を調べました。モデル選択の結果、フィルター孔径サイズ、遺伝子領域、水温、水質の4要因間の交互作用が、環境DNAの分解速度と特に関連していることが明らかになりました。この結果は、マアジ (Trachurus japonicus) の環境DNA粒子径サイズ分布の時間変化を調べた水槽実験 (Jo et al., 2019b, Environ. Sci. Technol.) の再解析によってもある程度支持されました。これらから、環境DNAの残存性を真に理解するためには、いわば「外野 (環境要因)」と「内野 (環境DNAの状態)」の関係性を知ることが非常に重要であることが示唆されました。

8 Tenma, H., Tsunekawa, K., Fujiyoshi, R., Takai, H., Hirose, M., Masai, N., Sumi, K., Takihana, Y., Yanagisawa, S., Tsuchida, K., Ohara, K., Jo, T., Takagi, M., Ota, A., Iwata, H., Yaoi, Y., & Minamoto, T. (2021). Spatio-temporal environmental DNA monitoring suggested the timing of Flavobacterium psychrophilum infection to ayu (Plecoglossus altivelis). Fisheries Science, 87(3), 321-330.

Link: https://doi.org/10.1007/s12562-021-01510-z【令和3年度日本水産学会論文賞】

両側回遊魚のアユ (Plecoglossus altivelis) は、日本の内水面漁業における重要魚種の一つであるだけでなく、文化的にも日本人と非常に馴染みの深い魚です。近年、Flavobacterium psychrophilumを病原体とする細菌性冷水病が日本国内で、特にアユの間で広く発生しており、アユの大量死を引き起こしているにも関わらず、河川における冷水病菌の動態はよく分かっていません。本研究では、環境DNA分析に基づくアユと冷水病菌の季節的な分布調査を通して、岐阜県の2つの河川 (長良川・揖斐川) における冷水病菌のアユへの感染時期を推測しました。その結果、アユ環境DNA濃度の季節変化はアユの生活史とおおよそ一致すること、冷水病菌DNAの検出率は約20℃を皮切りに急激に減少することなどが明らかとなりました。これらから、調査河川における冷水病菌のアユへの感染は、初夏〜秋にかけて主に発生することが示唆されました。[統計解析、作図、原稿執筆の一部を担当]

Jo, T., Tomita, S., Kohmatsu, Y., Osathanunkul, M., Ushimaru, A., & Minamoto, T. (2020). Seasonal monitoring of Hida salamander Hynobius kimurae distribution using environmental DNA analysis with a genus-specific primer set. Endangered Species Research, 43, 341-352.

Link: https://www.int-res.com/abstracts/esr/v43/p341-352/

流水性のヒダサンショウウオ (Hynobius kimurae) の季節的な分布モニタリングを行い、環境DNAと目視の結果を比較しました。全期間を通して、環境DNAによる検出率は目視のそれよりも格段に高く、かつ従来のサンショウウオの生態とおおよそ一致した結果を示しました。流水域における環境DNA分析を用いた両生類モニタリングの有効例と言えます。また、目視では幼生期に発見率が高かったのに対して、環境DNA分析では繁殖期に最も検出率が高くなりました。これは、繁殖行動に伴う環境DNA放出量の急増を反映していると考えられます。さらに、マルチ占有モデリングにより、環境DNAのサイト占有確率は電気伝導度の高い地点で減少する傾向にあることが分かりました。本研究では、サンショウウオ属に特異的なユニバーサルプライマーを用いており、単一の系で日本のあらゆるサンショウウオの分布モニタリングが可能になることが期待されます。

Jo, T., Murakami, H., Masuda, R., & Minamoto, T. (2020). Selective collection of long fragments of environmental DNA using larger pore size filter. Science of the Total Environment, 735(15), 139462. 

Link: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S004896972032979X?via%3Dihub

現行の環境DNA技術において、フィルターろ過は最も一般的な環境DNA回収法です。これまで、用いるフィルター孔径サイズの選択にあたって、ろ過効率や収量との関係性のみ着目されてきましたが、得られる環境DNA情報の質については全く着目されてきませんでした。私たちは、マアジ  (Trachurus japonicus) の水槽水を用いて、異なる孔径サイズ (0.7 µm & 2.7 µm) のフィルター間での環境DNAの収率を、複数のマーカーおよび断片長で比較しました.。その結果、相対的なミトコンドリア長鎖環境DNA (= 長鎖/短鎖環境DNA収量) の回収効率は、より大きなフィルター孔径サイズで増加しました。これは、細胞膜に覆われた「大きな環境DNA (larger-sized eDNA)」の選択的な回収が、より保存的な状態で (よりDNA断片の長い状態で) 存在する環境DNAの回収効率の増加につながったことを示唆しています。環境DNAの状態を利用することで得られる分子学的情報を選別できる可能性を、本研究は世界で初めて示しました。今後、これらアプローチの野外における実用性の検証が求められます。

Jo, T., Arimoto, M., Murakami, H., Masuda, R., & Minamoto, T. (2020). Estimating shedding and degradation rates of nuclear environmental DNA with relation to water temperature and biomass. Environmental DNA, 2(2), 140-151. 

Link: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/edn3.51

過去の水槽実験サンプルを用いて、水中のマアジ (Trachurus japonicus) 核DNAの分解率および放出率を推定し、ミトコンドリアDNAの結果と比較しました。水温および生物密度の影響は、マーカー間で概ね一致していた一方で、環境DNAの分解率はミトコンドリアよりも核の方が大きい傾向にありました。その構造によって環境DNAの残存性が異なる可能性を示した数少ない結果です。また、水サンプル中の核DNAとミトコンドリアDNAの比を計算した結果、体サイズの大きいマアジの水槽ではこの比が低下しました。この傾向は、成長や加齢に伴う細胞あたりのミトコンドリアDNAコピー数の減少と関連しているかもしれません。核DNAを用いることで、発達段階に伴うバイオマス推定結果の誤差を修正できる可能性があると共に、ミトコンドリアDNAと組み合わせることで、発達段階や齢構成を推定できる可能性が示唆されました。

Jo, T., Fukuoka, A., Uchida, K., Ushimaru, A., & Minamoto, T. (2020). Multiplex real-time PCR enables the simultaneous detection of environmental DNA from freshwater fishes: a case study of three exotic and three threatened native fishes in Japan. Biological Invasions, 22, 455–471. 

Link: https://link.springer.com/article/10.1007/s10530-019-02102-w

外来3魚種 (ブルーギル Lepomis macrochirus / オオクチバス Micropterus salmoides / コクチバス Micropterus dolomieu) および在来3魚種 (カワバタモロコ Hemigrammocypris rasborella / ミナミメダカ Oryzias latipes / ドジョウ Misgurnus anguillicaudatus) のDNAを対象とするマルチプレックスPCRの系をそれぞれ開発し、兵庫県南東部のため池99地点での短期間・高密度なモニタリングを行いました。その結果、表面積の大きく車のアクセスが容易なため池で、外来種の環境DNA検出率は高くなる傾向にあることが分かりました。これは、人為的導入が外来魚の在来系への侵入を促進させることを示唆していると言えます。また、外来種の環境DNA検出率が高いため池で、在来種の環境DNA検出率は低くなる傾向にありました。加えて、採捕・目視調査で個体の在が確認された地点では全て環境DNAが検出され、この手法の信頼性とコスト効率性が示されました。幾つかの、しかし特定の種の環境DNAを高感度で検出する際の、種特異的PCRでもメタバーコーディングでもない「第3の手法」として、今後の発展が期待されます。 

Jo, T., Arimoto, M., Murakami, H., Masuda, R., & Minamoto, T. (2019). Particle size distribution of environmental DNA from the nuclei of marine fish. Environmental Science & Technology, 53(16), 9947-9956.

Link: https://doi.org/10.1021/acs.est.9b02833

過去の水槽実験サンプルを用いて、水中のマアジ (Trachurus japonicus) 核DNAの粒子径サイズ分布を推定し、ミトコンドリアDNAと比較しました。その結果、3-10 µmのサイズ画分では、環境DNA濃度はミトコンドリアDNAよりも核DNAの方が高くなることが分かりました。この傾向は、真核細胞における核とミトコンドリアの大きさの違いを反映していると考えられます。また、< 3 µmのサイズ画分では環境DNA濃度と水温の間に正の相関が見られたと共に、より小さなサイズ画分で、魚引揚げ後の環境DNA量の減少速度は小さくなる傾向にあることも分かりました。細胞や組織片といった「大きな環境DNA」が水中で分解される過程で、その一部はオルガネラや膜外DNAといった「小さな環境DNA」に流入し、こうした壊れやすい環境DNAの残存性が動的に維持されているかもしれないという、いわば環境DNAのライフサイクルに関する仮説を提示しました。

Jo, T., Murakami, H., Yamamoto, S., Masuda, R., & Minamoto, T. (2019). Effect of water temperature and fish biomass on environmental DNA shedding, degradation, and size distribution. Ecology and Evolution, 9(3), 1135-1146. 

Link: https://doi.org/10.1002/ece3.4802 【The top 10% most downloaded paper in 2018-2019】

マアジ (Trachurus japonicus) を様々な水温およびバイオマス条件で飼育し、環境DNAの放出率および分解率がどのように変化するか網羅的に調べました。その結果、環境DNAの分解は高水温下だけでなく高バイオマス下においても促進され、環境DNAの放出も高バイオマスおよび高水温下で促進される傾向にありました。前者の結果からは、環境DNAの分解や残存性には微生物や生体外酵素の活性が大きく関与しうること、後者の結果からは、環境DNAの放出には生物量だけでなく生理学的要因 (代謝やストレスなど) も関与しうることがそれぞれ示唆されました。また、環境DNAを幾つかのサイズ画分に分けて解析した結果、水槽中に魚がいる時、引揚げ直後、そしてそれ以降で、環境DNAのサイズ分布が時間変化することを明らかにしました。環境DNAの性質や動態の理解に貢献する研究だと思います。

Jo, T., Murakami, H., Masuda, R., Sakata, M. K., Yamamoto, S., & Minamoto, T. (2017). Rapid degradation of longer DNA fragments enables the improved estimation of distribution and biomass using environmental DNA. Molecular Ecology Resources, 17(6), e25-e33.

Link: https://doi.org/10.1111/1755-0998.12685

2種類の異なる増幅長のプライマーを用いて、水槽中のマアジ (Trachurus japonicus) 環境DNAを経時的に測定しました。その結果、「短いDNA断片 (127 bp) 」に比べて「長いDNA断片 (719 bp) 」はより早く水中から検出されなくなり、分解率も大きくなることが分かりました。プライマーの増幅長が大きくなるほど、糞便および環境サンプル中のDNA残存量が相対的に減少することは知られていましたが、このことが増幅長に基づくDNA分解率の違いに起因しうることを、世界で初めて示しました。また、舞鶴湾内のマアジ環境DNAの分布を、増幅長の大きいプライマーを用いて調べた結果、漁港や市場に由来する「生きた個体以外のDNA」の影響をキャンセルし、結果的に環境DNA技術によるバイオマス推定精度を向上させることもできました。

BOOK CHAPTERS

一般社団法人 環境DNA学会 (企画) 土居秀幸・近藤倫生 (編)

「環境DNA: 生態系の真の姿を読み解く」

共立出版株式会社 (発行: 2021年3月15日)

(第1章を分担執筆)

ISBN: 978-4-320-05816-3 

https://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320058163

その他

相馬 (徐) 寿明 (2022)

[論文紹介002] 環境DNA技術2.0 –短鎖ミトコンドリアDNAマーカーを越えて–

環境DNA学会HP​ オフィシャルジャーナル (2022年10月11日 掲載)

徐寿明 (2022)

自由集会開催報告「メタ解析・データシミュレーションのススメ」

環境DNA学会 ニュースレター NO.4 (2022年3月10日 発行)

徐寿明 (2020)

自由集会開催報告・企画者報告「環境DNA技術における基礎研究の現状と展望」

環境DNA学会 ニュースレター NO.2 (2020年1月27日 発行)

徐寿明 (2020)

「環境DNA −どこにどれだけの生き物がいるかを、水から知る?−」

研究紹介Webメディア Laborify (2020年1月18日 掲載)

https://laborify.net/2020/01/18/jo-edna-analysis/

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